池山健次氏(株式会社ハナノキ会長)

北名古屋市のハナノキ様といえば、愛知県下でも指折りの老舗米穀商だ。
北見昌朗が著した愛知千年企業にも、ご登場いただいている。
http://www.nagoya-rekishi.com/meiji/chapter3/nagoyasyounin04.html

その会長の池山健次氏が「小説やらまいか 豊田佐吉傳」を絶賛して下さった。
池山さん自身が”文学青年”で、いくつか書籍を出されているほど。
その池山さんにお認めいただくことは、名誉この上ない。

若い人に読んで頂きたい、私の一冊。

池山健次株式会社ハナノキ 会長
池山健次

七十の半ばを超えてから評伝とか伝記小説に嵌(は)まっている。立派な業績を残した主人公の人生に自分の過ぎ去った平凡な人生を重ね合わせながら、色々な「気づき」を楽しむ。私もそんな齢(とし)になったのである。

城山三郎などの評伝小説を好んで読んできたが、この度(たび)一気に読み上げた北見昌朗氏(ペンネーム・北路透)の大作『小説やらまいか・豊田佐吉傳』上下二巻は、城山作品には見られない爽快さ、勢いが全編に漲(みなぎ)る傑作であった。

作者は、若い時代に新聞記者として鍛えた筆力を武器に、数々の著書を世に出してきた練達の文筆家。上下巻とも序章に先立ち、登場人物の紹介、豊田家の家系、人間関係図が分かり易く示され、最後には豊田佐吉と喜一郎の年譜も付けられている。名古屋を代表する社会保険事務所の経営者としての読者への細やかな心遣いが感じられる。又、この長い評伝の各所に最後まで挟み込まれる母ゑいの素朴な〈語り〉からは、本作品の主題は「母と息子」であることを忘れないで貰いたいという著者の強い思いが伝わってくる。同時に読者から言えば、この母の〈語り〉はこの長い物語の息継(いきつ)ぎの場所にもなっている。

作者が〈あとがき〉でも述べているように、この評伝はあくまでも小説、即ちノンフィクションを装ったフィクションである。作中で父親伊吉が佐吉に向かって言う励ましのセリフ「男は四の五のいらぬことを考える必要はない。志を立てた以上、迷わず一本の太い仕事をすればよいのじゃ」(下巻の表紙装画では佐吉から息子喜一郎への言葉となっている)が意味する〈やらまいか精神〉は、この小説のタイトルにもなっているもう一つの本書の主題であるが、恐らくこのセリフは作者が創作した若い読者へのメッセージである。

私は冒頭で、伝記小説は年寄りに似合った読物だと思われるような文章を書いてしまったが、実はそうではない。伝記小説や評伝はこれから人生に立ち向かっていかなければならない若い人たちのためにある。特にこの北路透版の『豊田佐吉傳』はそうである。未来ある若い人たち、そして現に今、この厳しい社会環境の中で悪戦苦闘している働き盛りの人たちに向けて書かれた本なのだ。

成功と挫折を繰り返しながら初志を貫き、今日のトヨタグループの基礎を築き上げた豊田佐吉の〈やらまいか精神〉、そしてその生き様は、私たちに大きな勇気を与えてくれる。

最後に一言。ペンネーム北路透は〈来た道通る〉とも読める。果たして何を暗示しているのだろうか?